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2006年11月25日 土曜日

「M&Aにおけるインサイダー取引の問題点について」

二一会研究部

「M&Aにおけるインサイダー取引の問題点について」
平成18年11月30日
発表:栗林勉

1 定義
インサイダー取引とは、上場会社等または公開買付者等の役員等、一定の関係を有する者(インサイダー)が、当該上場会社等または公開買付者等の内部情報(インサイダー情報)を知って、その公表前に当該上場会社等または公開買付者等の対象会社の株券などの売買を行うことをいう。

2 歴史
証券取引法の改正により平成元年4月1日から施行
証券取引法(金融商品取引法)166条(会社関係者の禁止行為)、167条(公開買付者等関係者の禁止行為)
平成4年改正:店頭売買有価証券についてのインサイダー取引規制の追加
平成9年改正:罰則強化(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金)
平成10年改正:
① 会社関係者等に親会社・子会社を含む
② 契約締結交渉中の者を含む
③ 第2次情報受領者に職務上重要情報を受領した者が属する法人の他の役員を含む
④ 取引が禁止される有価証券にオプションを表示する証書・証券を含む
⑤ 株式の有償の譲渡・譲受だけでなく、有価証券先物指数、デリバティブ取引を含む
⑥ 重要事実に子会社の重要事実を含む
⑦ 上場会社の決算情報に「企業集団」の売上高などの差異を含む
⑧ 利益配当・中間配当を重要事実に含む
平成13年改正:トラッキングストックに関する規定の追加
平成15年改正:重要事実の公表方法として、「証券取引所へ通知し、公衆縦覧に供されたこと」が追加
平成16年改正:グリーンシート銘柄についても「上場会社等」に含まれる
平成17年改正:会社法の施行に伴う改正。「役員等」に会計参与が追加、その他用語の変更など。課徴金制度の導入
平成18年改正:罰則強化(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(法人両罰は5億円以下の罰金))、用語の変更(金融商品取引所、取引所金融商品市場など)

3 適時開示との関係
証券市場の健全性が維持されるためには、投資者の投資判断に影響を及ぼす上場会社等の情報は、適時に正確かつ公平・平等に投資家に開示されること(適時開示・タイムリーディスクロージャー)が必要。
・有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、大量保有報告書
・東京証券取引所「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則」(適時開示規則)
開示方法:東京証券取引所への説明、TDnet(適時開示情報伝達システム)への登録

4 会社関係者等のインサイダー取引規制
(1)規制の内容
① 上場会社の役職員等の会社関係者が、
② 当該上場会社等の業務等に関する重要事実の発生後、公表前に
③ 当該重要事実を知りながら当該上場会社等の特定有価証券の売買等をする行為

(2)規制対象者
①上場会社の役員等上場会社等と一定の関係を有する者(会社関係者)
・ 役員、代理人、使用人、従業員、会計帳簿閲覧請求権を有する株主、法令に基づく権限を有する者(公務員など)、契約締結者または契約締結中の者、これらの法人の役員等が、職務に関し(権限行使に関し、契約に関し)、知ったこと
・ 上場会社の親会社の関係者(上場会社の重要事実を知った場合、上場会社の子会社の重要事実を知った場合)、上場会社の子会社の関係者(上場会社の子会社の重要事実を知った場合)を含む

②会社関係者でなくなってから1年以内の者(元会社関係者)
・ 会社関係者であるうちに受領した重要事実に関する情報についてのみ

③会社関係者または元会社関係者から上場会社等の業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(情報受領者)
・ 第1次情報受領者に限られる
・ 会社関係者には情報を伝達する意思が必要(偶然会社関係者から聞いた者は含まない)
・ 新聞社が情報受領者の場合には、新聞社の社員も第1次情報受領者になる

5 重要事実
重要事実とは、投資者の投資判断に影響を及ぼす情報
① 決定事実
株式・新株予約権の募集、資本金の額の減少、準備金の額の減少、自己の株式の取得、株式無償割当て、剰余金の配当、株式交換・株式移転、合併、会社分割、事業譲渡等、解散、新製品等の企業化、業務提携等(ただし、一部軽微基準あり)

② 発生事実
災害に起因する損害等、主要株主の異動、上場廃止等の原因となる事実など(ただし、一部軽微基準あり)

③ 決算情報
単体・連結の売上高等の予想値の修正など(重要基準あり)

④ バスケット条項
上記①ないし③以外の投資者の投資判断に著しい影響を与える事実

⑤ 子会社の決定事実
子会社の株式交換・株式移転、合併、会社分割、事業譲渡、解散、新製品の企業化、業務提携等(一部軽微基準あり)

⑥ 子会社の発生事実
子会社の災害に起因する損害等(一部軽微基準あり)

⑦ 子会社の決算情報
上場・店頭登録・グリーンシート銘柄・トラッキングストック対象の子会社の売上高等の予想値の修正等(重要基準あり)

⑧ 子会社のバスケット条項
上記⑤ないし⑦以外の投資者の投資判断に著しい影響を与える事実

6 特定有価証券の売買等
インサイダー取引とは、重要事実を知りながら、特定有価証券等の売買等をすること
「特定有価証券」とは、社債券、優先出資証券、株券、新株予約権証券、特定有価証券にかかるオプションを表示する関連有価証券をいう。
「売買等」とは、売買、その他の有償の譲渡・譲受け、先物取引・オプション取引等のデリバティブ取引を含む。

7 重要事実等の公表
① 2以上の報道機関に対して公開し、12時間が経過したこと
② 証券取引所または証券業協会の規則で定めるところにより、当該証券取引所または証券業協会に通知し、これが当該証券取引所または証券業協会において電磁的方法(東証のTDnetなど)により公衆の縦覧に供せられたこと
③ 有価証券届出書、発行登録書、発行登録追補書類、有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、これらの添付書類や訂正書類に記載して内閣総理大臣に提出し、これが公衆の縦覧に供されたこと(EDINETにより提出された場合には、これが財務局の使用するコンピュータの画面に表示されたこと)

8 適用除外
① 株式の割当を受ける権利・新株予約権・オプションの行使により取得する場合
② 株式買取請求権に基づく売買等
③ いわゆる防戦買い
④ 公表された株主総会決議に基づく自己の株式の取得
⑤ 安定操作取引
⑥ 普通社債券の売買等
⑦ インサイダー同士の相対取引
⑧ 役員持株会、従業員持株会、関係会社持株会による買付け
⑨ いわゆる「るいとう」
⑩ 公開買付開始広告を行った公開買付け
⑪ 公開買付け届出書を提出した自己の株式の公開買付け

9 公開買付者等関係者等のインサイダー取引
(1)禁止行為
① 公開買付者等関係者等が(対象者)
② 公開買付等事実の発生後、公表前に(時期)
③ 当該公開買付等の事実を知りながら、株券の買付け等または売付け等をすること(行為)

(2)公開買付者等関係者等
① 公開買付者等の役職員、会計帳簿閲覧請求権を有する株主、法令に基づく権限を有する者、契約締結者・契約締結交渉中の者、これらと同一法人の他の役職員
② 元公開買付等関係者等
③ 情報受領者

(3)公開買付け等事実
・ 公開買付等の実施に関する事実または公開買付け等の中止に関する事実
・ 買い集め行為については、1年に買い集める株式が総株主の議決権の2.5%未満のときは除外される。

(4)株券等の買付け等・売付け等

(5)公開買付け等事実の公表
①2以上の報道機関に対して公開し、12時間が経過したこと
②公開買付開始公告・公開買付け撤回の広告・公表がなされたこと、及び公開買付届出書・公開買付撤回届出書が公衆縦覧に供されたこと
③自己株式の公開買付けについては、証券取引所または証券業協会に通知し、電磁的方法(東証のTDnetなど)により公衆縦覧に供されたこと

(6)適用除外
①株式の割当を受ける権利・新株予約権・オプションの行使
②株式買取請求権に基づく売買等
③いわゆる応援買い
④いわゆる防戦買い
⑤安定操作取引
⑥インサイダー同士の相対取引
⑦役員持株会、従業員持株会、関係会社持株会による買付け
⑧いわゆる「るいとう」
⑨ 公開買付開始広告を行った公開買付け
⑩ 公開買付届出書を提出した自己の株式の公開買付け



今後の取り組み
・ 公開関係者等関係者等のインサイダー取引規制(証券取引法167条)について
・ 日本織物加工事件の分析
・ 日本商事インサイダー事件の分析
・ M&Aにおける弁護士の役割についての解説
・ 公開買付けの手続きについての解説
・ 村上事件の分析
・ 大王製紙の北越製紙に対する公開買付けについての分析(新聞記事などから)
・ 村上ファンド事件についての講評作成?
・ 弁護士の職務上の注意点についての論文またはガイドラインの作成?

参考文献・判例
・ 「最新インサイダー取引規制 解釈・事例・実務対応」松本真輔著 商事法務
・ 日本織物加工事件(平成11年6月10日判例時報1679号1頁)
・ 日本商事インサイダー事件(平成11年2月16日判例寺宝1671号45頁)

添付資料
・ 証券取引法166条、167条
・ 規則
・ 大和證券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
・ 最近の証券取引法の改正について
・ 日本織物加工事件(証券取引法違反被告事件)下級審判決、最高裁判決
・ 日本商事インサイダー事件下級審判決、最高裁判決

投稿者 東京弁護士会 二一会 | 記事URL

2006年11月 1日 水曜日

二一会研究部 「M&Aにおけるインサダー取引規制」

二一会研究部 「M&Aにおけるインサダー取引規制」

(問題)
1 A社は、X社の株式を(友好的)公開買い付けにより取得し、X社を傘下に収めることを考えている。A社の顧問弁護士が、X社の了解を得て、X社においてデューデリジェンス(法務監査)を行ったところ、法務監査の過程で、X社が秘密裏に新製品の開発を進めており、市場に発売された場合には、多額の利益を見込めることを発見した。
・ A社の取得した情報がインサイダー情報にあたる場合、A社は公開買い付けの手続きを行うことができるか?
・ 仮に、A社による公開買い付けの手続き途中においてA社がX社のインサイダー情報を取得した場合、A社は公開買い付けの手続きを進めることができるか?反対にこれを中止することができるか?
・ 仮に、A社がX社に対する敵対的な公開買い付けを検討している場合で、A社がX社の代表者との交渉の過程において、いまだ開示されていない重要事実(インサイダー情報)を聞いた場合、A社はX社に対する公開買い付けを実施することができるか?X社による開示がなされるまで、インサイダーとしてX社株式の取得ができないことにならないか?
・ X社は、インサイダー情報に関する事実を、いつの時点で開示する義務があるのか(社長の単独の判断で決定される決議事実について、取締役会の決議がある前に発表する必要があるのか)?

2 AはX社の株式を敵対的公開買い付けの方法により取得することを検討している。Aは友人のBに、敵対的公開買い付けを行うことを検討している旨話をした。Bは、将来Aに対して譲渡すること(またはAによる公開買い付けに応じること)を目的に、Aによる公開買い付けの広告がなされる前に、X社の発行済み株式の10%を取得した。
・ BがAの共同買付者とみなされる場合、Bの行為は違法か?
・ BがAの共同買付者とみなされない場合、BがX社株式を取得することはインサイダー取引にあたるか?
・ Bが、Aへの売付けではなく、X社への売付け(防戦目的の買い付けに応じる目的)を目的に株式を取得していた場合も同じ結論になるか?

(講義)
1 インサイダー取引についての解説(インサイダー取引規制全般、判例研究)
・ 日本織物加工事件(平成11年6月10日判例時報1679号1項)
・ 日本商事事件
・ その他

2 公開買い付けの手続き、公開買い付けに関する金融商品取引法(証券取引法)の規制
・ 日本放送事件、オリジン東秀の公開買い付けを参考に、金融商品取引法で公開買い付けに対する規制はどのように変わったか

3 村上ファンド事件についての考察

4 大王製紙の件、DDの過程においてインサイダー情報を入手した場合の処理

5 組織再編の過程におけるインサイダー情報(上場会社A社が上場会社B社を子会社化し、その後、B社とA社の別の子会社(非上場会社)を合併させることを検討している場合、A社はB社の株式取得に際して、どの範囲までの情報を開示する必要があるか)

投稿者 東京弁護士会 二一会 | 記事URL